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学校に行きたいのに朝起きられない――思春期に多く見られる疾患「起立性調節障害」とは?
- 起立性調節障害とは「朝起きられない」「立ちくらみやめまいを起こしやすい」などの症状が出る思春期に多い疾患
- 午後から夜にかけて症状が緩和するため「怠け」と誤解されやすく、偏見や精神的な負担も課題
- 病気を正しく理解し、寄り添うことが大切。学校における合理的配慮や心配りが求められている
取材:日本財団ジャーナル編集部
「朝起きたくても起き上がれない」「起きようとすると立ちくらみやめまいがする」――。
思春期にみられるこれらの症状は、もしかしたら起立性調節障害によって引き起こされているのかもしれません。「起立性調節障害(OD)」とは、自律神経のバランスが崩れることで不調が生じる病気で、中学生の10パーセントが発症するというデータがあります(※)。
- ※ 参考:『小児心身医学会ガイドライン集(改訂第3版)』
この病気は午前中に強く症状が出るため、学校生活に大きな影響を及ぼします。実際、不登校の約3〜4割に起立性調節障害が関係しているといわれています。
また、午後には症状が軽快することが多いことから、「やる気がないからだ」「怠けている」と周囲から誤解されやすく、精神的に追い詰められてしまう当事者や家族もいます。
この記事では、昭和医科大学病院で起立性調節障害の専門外来を担当する田中大介(たなか・だいすけ)さんに、起立性調節障害とはどんな病気なのか、当事者が直面する困難や周囲の接し方のポイントなどを伺いました。

朝起きられないのは自律神経の不調が原因かもしれない
――起立性調節障害とはどんな疾患なのでしょうか。
田中さん(以下、敬称略):思春期に多く見られる疾患で、立ち上がったときや立っているときにめまいや動悸、頭痛、失神などの症状が出ます。
私たちの体は自分の意思ではコントロールできない自律神経によって、血圧や心拍数の上げ下げ、体温の調節、胃腸の動きなどを自動調整しているのですが、起立性調節障害はそうした自律神経の不調によりさまざまな症状を引き起こすのです。
日本小児心身医学会が作成している『小児心身医学会ガイドライン(改訂第3版)』によると、小学生の5パーセント、中学生の10パーセントが起立性調節障害であるというデータがあり、決して珍しい疾患ではありません。
――そんなに多くの子どもたちが不調に悩んでいるのですね。特徴的な症状を教えてください。
田中:ガイドラインでは起立性調節障害を見極めるためのチェックポイントとして、チェックリストにある身体症状を挙げています。
また、朝、寝床で仰向けになって寝ている状態でも、吐き気やめまいを認めることがあります。これは自律神経の働きが乱れることで、腸の動きが鈍くなったり、体のバランスを保つ内耳が十分に機能していないことが考えられます。
立ち上がったとき、立っているときに頭と足に落差ができ、その際、重力により血液の分布不良が起こります。起立性調節障害ではその改善に乏しく血流の不均衡が生じるため、症状がみられます。そして、座っていても同様に症状が出ることがあります。
朝は起きたくても起きられないため、夜、なかなか眠れなくなり、睡眠障害を認め、昼夜逆転の生活になることもあります。
これらの症状は、多くは成長とともに軽快していき、高校生くらいになると徐々に落ち着いていきます。ただ、重症化すると長期にわたって学校に行けなくなったり、自己肯定感が低下して引きこもりにつながったりすることもあるので深刻です。

不登校の約3〜4割に起立性調節障害が関係している
――不登校の原因にもなってしまっているのですね。
田中:はい。不登校の約3〜4割に起立性調節障害が関係しているといわれています。起立性調節障害は身体的なつらさだけでなく、疾患を十分に理解されていないと、偏見にさらされることで精神的な負担も大きくかかる疾患なのです。
――どんな偏見があるのでしょうか。
田中:起立性調節障害の症状は午前中に強く出て、午後から夜にかけて回復する傾向にあります。朝は全く動けなかったのに、夜には元気になっている。そのため周囲の人たちからは、「さぼっている」「怠けている」と誤解されてしまうことがあります。そうした偏見に苦しむ子どもたちは少なくありません。
起立性調節障害の子どもたちに「学校に行きたい?」と聞くと、ほとんどの子が即座に「行きたい」と答えます。一方、行きたい気持ちはあっても、朝起きられないことで学校に遅刻するようになり、次第に行きづらくなってしまい「行きたくない」と話すことがあることを知っておくことも大切です。
また、「行きたくない」と答えた場合、理由が人間関係のトラブル(いじめなど)が関係している場合もあり、丁寧な対応が必要になります。
起立性調節障害は「気持ちの問題」ではなく、本人の意思とは関係なく起こる体の病気だということを知ってほしいと思います。
――起立性調節障害によって子どもたちの成長にはどのような影響がありますか。
田中:小学校高学年から高校生にかけては身体的にも精神的にも発達するとても大切な年代です。「自分はどんな人間なのか」を考え、いろいろ模索しながらアイデンティティーを確立させていく時期でもあります。
しかし、この時期に思春期特有の疾患である起立性調節障害を発症してしまうと、周囲から「さぼっている」「やる気がない」と誤解され、「自分の努力が足りない」「私が悪いのだ」と自責感を強めてしまう子どももいます。
自信を失い、自尊感情が低くなる一方で、症状のことは自分ではどうしようもできないので、次第に「何をしても無駄なんだ」と諦めてしまう。そのため起立性調節障害を発症した子どもたちに対しては、身体的なケアに加えて心のケアも欠かせません。
もし子どもが朝起きられないのであれば、「だらしがないからだ」などと決めつけずに、一度、前述した身体症状のチェックリストを確認してみてください。当てはまったら起立性調節障害を疑い、医療機関を受診しましょう。

症状を緩和させるための生活習慣や対処法
――症状を改善するにはどんな方法があるのでしょうか。
田中:起立性調節障害と診断されたら、症状を抑えるために取り組むのが生活習慣の改善です。決して「朝早く起きましょう」ということではなく、自分の体調に合わせながら生活リズムを整えることで症状を緩和させていくという意味です。
ポイントは、「1日3食(可能な範囲で)、バランスのとれた食事をとる(水分は1.5〜2リットル、塩分は多めに)」「十分な睡眠時間をとる」「適度な運動をする」「朝はゆっくり起き上がる」「じっと立ち続けない、じっと座り続けない」「椅子などからさっと立ち上がらない」ということ。
そして、起立性調節障害で十分注意しておきたいのが体力の低下です。学校に通えず日常生活の活動量が著しく減ると、歩行困難になる場合もある深刻な問題です。外に出るのが難しければ家の中でもいいので、毎日少しずつ体を動かしましょう。
私は患者さんに「1日3回でもいいからスクワットをしてみよう」「縄を使わずにエア縄跳びをしよう」と提案しています。
大切なのは自分の体調に合わせたリズムで生活をすること。いま自分ができることを知り、それができたら「OK!」と、自分をぜひほめてほしいと思います。
起立性調節障害の診療では、血圧を上げたり動悸を抑えたりするための薬物療法を行うこともありますが、薬物療法だけでは効果は十分ではありません。まずは非薬物療法とも呼ばれる生活における工夫や対策が基本になります。また、症状に応じて漢方や睡眠薬などを処方することもあります。


――起立性調節障害かもしれないと思ったら、どこを受診すればよいですか。
田中:症状のチェックリストに当てはまるのであれば、小児科を受診しましょう。ただ、小児科でも起立性調節障害を専門に診療する医師は、まだまだ少ないのが現状です。そのため、起立性調節障害の専門外来を立ち上げている医療機関や、日本小児心身医学会の認定医(外部リンク)がいる施設を検索して受診することをおすすめします。
また、日本小児科医会が認定する「子どもの心相談医」(外部リンク)の資格を持っている医師も、起立性調節障害を含めた心身症や不登校などの相談にも広く乗ってもらえると思います。
一方で、起立性調節障害において心身症(※)を合併すると気持ちが沈むことがあり、うつ病などの精神疾患を心配して、はじめに精神科を受診される場合もあります。もし、チェックリストで起立性調節障害が疑われた場合には、まず小児科を受診することをおすすめします。
なお、高校生以降で最寄りの小児科で対応していない場合には、循環器内科や神経内科で起立性調節障害(成人領域では起立不耐症と呼ばれることが多い)の診療が可能な医療機関への受診をおすすめします。
もちろん、身近な「かかりつけの先生」に相談することで、専門医療機関に紹介してもらえることもあります。
- ※ 「心身症」とは、ストレスが蓄積したときに、現れる疾患。脳の神経伝達物質の流れが損なわれ、自律神経がうまく機能しなくなり、神経系や循環器系、呼吸器系など身体のさまざまな領域に不調が現れる
症状で悩む親子、学校に行けない時間をどう過ごすか
――子どもの起立性調節障害に悩んでいる保護者も多いのではないでしょうか。
田中:子どもと同じように心を痛めているのが保護者たちです。あるお母さんが、「起立性調節障害は子どもの青春を奪い去る恐ろしい病気だ」と言っていたのが強く印象に残っています。毎日つらい思いをしている我が子を見て、そう感じたのでしょう。
ただ、心配のあまり子どもに介入しすぎてしまうのは逆効果になります。親の要望に応えられない自分はダメなんだと思わせてしまうことにもつながりかねません。時として「放っておく」姿勢も必要。子どもが自分のペースを取り戻せるまで、少し時間を置いて見守ってあげることが大事です。
親も自分の好きなことを見つけて、自分の時間を楽しんでいると、自然と子どもとの関係性が良くなっていくこともあります。「安心できる場所」があれば、子どもは「私は大丈夫」と思えるようになるのです。
――受験や進学など、将来の選択にはどのような影響がありますか。
田中:朝起きられないことで午前中に学校に行くことが難しくなり、高校進学においては、始業時間が午前の遅い時間や午後に設定されている定時制や、週に2〜3回登校したり、体調がすぐれないときに自宅学習が可能な通信制の学校を選ぶ子どもたちもいます。
最初は「みんなと一緒の学校に行きたかった」と気持ちが落ち込むこともありますが、そこから将来を切り拓いた子どもたちはたくさんいます。
以前、起立性調節障害についての講演をした時に、終わってから1人の大学生が話をしに来てくれたことがあります。
彼は通信制の高校を選んだ時、「もう大学は諦めるしかない」と誰にも言わずに心の中で思っていたそうですが、実際に進学してみると「自分に合っている」と考えが変わったといいます。
好きな時間に勉強ができて、それまでのストレスから解放された。その分のエネルギーを自分のやりたいことに使えるようになり、見事に大学に進学し社会福祉学を学び、さらに大学院にまで進んで、起立性調節障害に関する研究に携わったそうです。
――症状と闘いながらも、環境さえ整えば学び続けられるのですね。
田中:そうです。たとえ症状がつらくて学校に行けなくても、何か好きなことを見つけて「これだけはやってみよう」とチャレンジしてみると、体調が戻ったときの原動力になることもあります。
ギターを弾いたり、お菓子を作ったり、手芸をしたり、アルバイトをしたり……。とにかくできること、好きなことを続けることが、病気を乗り越える上での支えになり、その後の大きな力になるのです。

起立性調節障害は医療、学校、社会が力を合わせて取り組む問題
――田中さんは起立性調節障害の専門外来で診療をされているほか、全国各地で講演をされています。現在、力を入れている活動について教えてください。
田中:起立性調節障害についての理解を広めることはもちろん、子どもたちや保護者たちが抱えるつらさをより多くの人たちに伝えていきたいと考えています。
学校や社会において必要な支援体制をつくっていくためには、そうした「アドボカシー(子どもたちの声にならない声を聞き、それを代弁していくこと)」が重要だからです。
いま取り組んでいるのが、起立性調節障害の子どもたちをサポートする上での職種や施設を越えた連携です。私がアドバイザーとして関わる静岡県静岡市の教育委員会では、起立性調節障害の生徒を支援するために、2026年春に開校した「学びの多様化学校(※)」で登校時間を通常よりも遅らせたり、体調に応じてオンラインを活用した授業を受けられるようにしたり、独自のカリキュラムを設定しています。
さらに静岡市では、起立性調節障害を正しく理解してもらうためのガイドラインを作成する予定です。この取り組みを教育委員会、学校、医師会、議会、親の会と協力しながら「OD静岡モデル」として、全国に広めていきたいと思っています。
起立性調節障害は医療だけでは解決できない問題です。学校の先生、患者さんを取り巻く周囲の人々と一緒に取り組んでいくことが大切だと思います。
- * 「学びの多様化学校」とは、不登校児童生徒を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施する学校のこと
――起立性調節障害の人に寄り添う上で、まず周囲が理解しておくべきことはなんでしょうか。
田中:まず起立性調節障害は見かけだけでは分かりにくい疾患だということを理解することが大切です。
骨折している人に「走れ」と言う人は誰もいませんよね。でも、起立性調節障害の場合は、見た目にはつらさが伝わらないので患者さんたちは本当に苦労しています。
決して悪気は無くても「もう少し頑張ってみたら?」などと言われてしまうこともあります。しかし、自分ではコントロールできない自律神経の不調なので頑張る術などありません。
なかには、遅刻しても頑張って学校に行ったのに、先生から「もっと早く来られないの?」と言われて傷ついたと話す子もいました。
病気について理解するとともに、起立性調節障害の人たちの中には偏見にさらされてつらい状況を経験していることが決して少なくないことをぜひ知ってほしいと思います。
もし学校の先生であれば、遅刻を否定的に捉えるのではなく、遅れて教室に入ることへのプレッシャーを乗り越えて来たことに共感し「今日はよく来たね」とそっと声をかけ、味方になってあげることが大事だと思います。

――見た目では分かりにくいからこそ、周囲の言葉や関わり方が重要になるのですね。具体的には、どのような関わり方が望ましいのでしょうか。
田中:大事なのは一人一人の気持ちに寄り添うこと。私は起立性調節障害の患者さんが100人いたら100通りの経過があり、100通りの対応が必要になると考えています。病気によって何ができないのかを正しく理解してもらえると、患者さんの心は楽になります。
もし、学校の友人が起立性調節障害に苦しんでいると知ったら、病気のことを必要以上に気遣うよりも自然に接してあげるのがよいと思います。私の外来では「学校で友だちと普通に話せてうれしかった」と話す子も多いです。
最近では自らの体験を発信しようとする当事者の方たちも増えてきました。そうした声に耳を傾けることで、起立性調節障害でどんなつらさを抱えているのかを知り、困っている人に手を差し伸べていくことが大切ではないでしょうか。
起立性調節障害の患者さんや、保護者をサポートするKJ起立性調節障害オンラインコミュニケーションをはじめとする7つの団体の皆さまが実施したアンケート(2026年3月)をもとに、「起立性調節障害の子どもや保護者への望ましい声がけや行動、望ましくない声がけや行動、注意を要するワード」について表にまとめました。
多数の回答の中からの抜粋になりますが、家庭や学校で起立性調節障害の子どもたちに接する上で、ぜひとも知っておいていただければと思います。


田中:2025年春、起立性調節障害の中学生が立ち上げた「NPO法人子どもの輪 起立性調節障害を当事者から広める会」(外部リンク)では、子どもたちが会を運営し、オンラインでの交流会、リーフレットの作成など画期的な企画に取り組んでいて注目されています。
起立性調節障害の子どもたちの声に、ぜひ耳を傾けてもらえればと思います。
起立性調節障害でも安心して過ごせるように、私たち一人一人ができること
起立性調節障害に苦しむ人たちが安心して日々を過ごせるように、私たち一人一人にできることを田中さんに伺いました。
[1]起立性調節障害について正しく理解する
起立性調節障害は自分ではコントロールできない体の病気であることを理解する。「怠けている」「気合や努力が足りない」といった間違った認識をしないことが、当事者の精神的な負担の軽減につながる
[2]症状をチェックしてもらい、医療機関への相談につなげる
小学校高学年から高校生で「朝起きたくても起きられない」と悩んでいる人がいたら、症状をセルフチェックできることを知らせる。もし、当てはまったら起立性調節障害を疑い、医療機関での受診をすすめる
[3]見た目に分からない病気だからこそ、周囲の配慮が不可欠
起立性調節障害になると、体のつらさだけでなく偏見にも悩まされることを知り、周囲が温かく寄り添いながらサポートすることが大切。NGワード、GOODワード、注意を要するワードを心にとめて接するようにする
知り合いのお子さんが「朝起きられない」「立ちくらみがする」といった起立性調節障害の症状に悩んでいると聞いたことをきっかけに、起立性調節障害への理解を広める活動をしている田中さんに話を伺いました。
思い返すと、小・中学校時代、朝礼中に倒れてしまう子や午前中に具合が悪そうな子が身近にいました。当時は原因が分かりませんでしたが、もしかしたらその子たちは、起立性調節障害だったのかもしれません。
田中さんの話で印象的だったのが、「起立性調節障害は子どもの青春を奪い去る恐ろしい病気だ」と語ったお母さんの言葉です。発症した当事者だけでなく、家族をも苦しめる病気なのだと気づかされました。
まずは家庭や学校、社会がこの病気を正しく理解することから始めて、適切な支援や体制を構築することで、当事者や家族への偏見をなくしていきたいと思いました。
撮影:十河英三郎
田中大介(たなか・だいすけ)
小児科専門医。昭和医科大学副学長、保健管理センターの所長・教授を務める。長年、起立性調節障害の診療に携わり、昭和医科大学病院、戸塚共立おとキッズクリニックで専門外来を担当する。起立性調節障害の患者、保護者、養護教諭をはじめとして学校教諭、スクールカウンセラー、医療関係者などに向けて、起立性調節障害の病態や治療、家庭や学校での対処法などをテーマに各地で講演をしている。『小児科医が伝えたい 起立性調節障害 症状と治療』(徳間書店)など著書多数。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。