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不登校の原因は子どもじゃない! 必要なのは、多様な価値観を受け入れる大人や社会、そして教育
- 小中学生の不登校が過去最多。今の教育や社会の仕組みと、子どもたちの実態にずれがある
- 子どもではなく、画一的な価値観や評価軸を当たり前としてきた大人側が、視点を見直す必要がある
- 多様な価値観を認め、子どもを信頼して自分らしく学べる環境を地域につくることが大切
取材:日本財団ジャーナル編集部
「学校に行きたくない」
もし、わが子や身近な子どもがそう口にしたら、あなたは何と答えますか?
現在、日本の小中学校における不登校児童生徒数は35万人を超え、過去最多を更新(※)。子どもたちの「学校に行けない」という声は、もはや一部の家庭だけの問題ではありません。
こうした現状を前に、私たちはつい「どうすれば子どもを学校に戻せるのか」と考えがちですが、本当に変わるべきなのは子どもたちなのでしょうか。
奈良県天理市で教育や福祉の支援に取り組む、一般社団法人みちをつくる(外部リンク)代表の吉田田(よしだだ)タカシさんは、不登校を「子どもの問題ではなく、画一的なシステムが生み出した大人の課題」だと捉えています。
これまで吉田田さんは、子どもから大人まで通う“学び”と“居場所”を兼ね備えたアートスクール「アトリエe.f.t.」、学校に行かないと決めた子どものいる親や、活動の趣旨に賛同する大人たちが楽しく学び合うコミュニティ「トーキョーコーヒー」、貧困や孤独といった環境にある子どもたちを、地域みんなで支える「まほうのだがしや チロル堂」など、教育・福祉・地域を横断する実践を重ねてきました。
その根底にあるのが、「たのしいにいのちがけ」という哲学。子どもも大人も、自分らしく学び、挑戦し、失敗できる環境を地域につくることで、人と社会のレジリエンス(回復力)を育む。そして今、その集大成として構想しているのが、2027年開校を目指す、新しい学びの場「e.f.t. College of Arts(カレッジオブアーツ)」です。
不登校の増加は、子どもたちから社会への問いかけなのかもしれません。全ての子どもが自分の手で人生をつくるために、私たち大人の「当たり前」をどう更新していけるのか。吉田田さんの実践を通して、そのヒントを探ります。

不登校は子ども自身の問題ではなく「社会の仕組みとのミスマッチ」
――吉田田さんが長年、子どもの居場所づくりに取り組むなかで、「学校に行けない子どもたち」に共通して感じてきたことはありますか。
吉田田さん(以下、敬称略):活動を通じて多くの子どもたちと関わってきましたが、共通して感じるのは、その子たちに問題があるというより、今の社会や教育の仕組みとのミスマッチです。
もちろん、不登校の背景は一人一人違います。でも話を聞いていると、「この子たちを変えるべきなのだろうか」という疑問が湧いてくるんです。むしろ、画一的な価値観や評価軸を当たり前としてきた大人たちの側に課題があるのではないか、と……。
僕自身も10代の頃から社会の窮屈さに違和感を抱いていました。だからこそ批判で終わるのではなく、正解が1つではないアートの視点から、新しい選択肢やブレイクスルーをつくりたいと思っています。
――大人たちの課題を、具体的な活動に落とし込んでご説明いただけますか。
吉田田:例えば、「チロル堂」の活動も「困っている子どもを助ける」という発想だけではありません。ご飯を食べられない子どもたちを「かわいそうな存在」として捉えるのではなく、その子たちも社会を構成する大切な一人であり、1つのピースだと考えています。
そもそも正しさは人それぞれです。しかし大人はつい、1つの物差しで子どもたちを測ろうとしてしまう。学校に行けるか、成績がいいか、周囲に合わせられるか。そうした大人たちの価値観そのものをアップデートしていく必要があると思っています。


大人に問われているのは、子どもの力を「信頼」できるかどうか
――まず「大人が変わること」が大切だと考えるのはなぜでしょうか。
吉田田:僕が子どもたちの問題を見ているようで、実は社会の仕組みや大人の価値観の問題を見ているからです。
今の日本の教育システムは、戦後の復興期に形づくられたもの。一定のルールのもとで多くの人が同じ方向を向き、秩序を保ちながら学ぶことで、日本は大きな発展を遂げました。
ただ、その仕組みが今の時代にもそのまま合っているかというと、僕はそうではないと思っています。1つの正解や成功モデルにみんなを当てはめようとすると、どうしても息苦しさが生まれてしまう。
不登校の子どもたちと出会う中で感じるのは、子どもたちに問題があるわけではないということです。むしろ、今の教育システムや社会との間にズレが生じている。だから本当に向き合うべきなのは、「どうやって子どもを変えるか」ではなく、「どうやって社会や教育をアップデートするか」なんです。
そして、その真ん中にあるのが「信頼」だと思います。子どもたちは本来、自分で学び、自分を表現する力を持っています。その力を信じられるかどうかが、大人に問われていることなのではないでしょうか。

「子どもを変える」のではなく、社会の価値観を変えたい
――一般社団法人みちをつくるの活動や立ち上げのきっかけを教えてください。
吉田田:10代の頃から、僕はずっと社会や働き方に違和感を持っていました。会社に所属し、利益を追いかけることが当たり前とされる社会にどこか息苦しさを感じていたんです。だから活動も最初から会社にするつもりはありませんでした。
1998年に始めたアトリエe.f.t.も、「つくるを通していきるを学ぶ」をテーマに仲間たちと続けてきた活動です。今も関わるスタッフ約40人は全員フリーランス。それぞれが自分の人生を生きながら、共感する部分でゆるやかにつながっています。
そんな活動を続けるなかで見えてきたのが、日本の教育の課題でした。不登校の子どもたちや生きづらさを抱える親たちと出会うたびに、「子どもを変えるのではなく、大人や社会の価値観を変える必要がある」と感じるようになったんです。
本気で日本の教育を変えるなら、地域全体を巻き込んだ新しいモデルが必要だと思い、「e.f.t. College of Arts」を設立しようと考えました。その挑戦を形にするため立ち上げたのが一般社団法人みちをつくるです。
――団体名である「みちをつくる」には、どのような思いが込められているのでしょうか。
吉田田:「みちをつくる」という名前には2つの意味があります。1つは、誰もが自分の人生を自分でつくっていいということ。もう1つは、「未知」と「道」を掛け合わせた意味です。正解のない時代だからこそ、自分たちで未来への道をつくっていきたい。その挑戦を奈良から始め、日本の教育を変えていきたいと思っています。


「楽しさ」を真ん中に置いたコミュニティが全国に広がった理由
――「トーキョーコーヒー」がわずか3年で400拠点にまで広がった背景には何があったのでしょうか。
吉田田:当初は「2年で100拠点くらいできたらいいね」と話していたんです。それが気づけば全国400拠点を超える規模になりました。
SNSを中心に立ち上げの呼びかけをした際には、北海道から沖縄まで約200人が集まりました。地域も年齢も立場も違うのに、「今の教育や社会のあり方に違和感がある」「子どもたちがもっと自由に生きられる社会をつくりたい」という思いは共通していたんです。
もう1つ大きかったのは、「支援」を前面に出さなかったことかもしれません。「トーキョーコーヒー」は不登校支援団体ではなく、「楽しさ」を真ん中に置いたコミュニティです。
そこにあるのは「うっかり助け合う」という考え方。誰かを助けようとして集まるのではなく、一緒にコーヒーを飲んだり、おしゃべりをしたりするなかで、結果的に誰かが支えられる。そんな自然な関係性を大切にしています。
不登校という社会課題を入り口にしながらも、目指しているのは「子どもを学校に戻すこと」ではなく、「誰もが自分らしく生きられる社会をつくること」。その前向きなビジョンに、多くの人が共感してくれたのだと思います。


子どもたちに必要なのは「自分なりの答えを見つける力」
―― 2027年開校を目指す「e.f.t. College of Arts」は、従来の学校と何が違うのでしょうか。
吉田田:僕たちがつくろうとしているのは、学校というより「学び合う社会」です。
学校は社会の写し鏡だと思っています。今の学校に息苦しさがあるのだとしたら、それは社会そのものの息苦しさでもある。だから学校だけを変えるのではなく、地域や大人たちの在り方も一緒に変えていく必要があります。
「e.f.t. College of Arts」では、老朽化した児童館をリノベーションし、子どもだけでなく大人も集う学びの拠点をつくろうとしています。教育施設でありながら地域の人たちも自然と関われる場所です。
特徴的なのは、行政・民間・市民が一緒になってつくること。さまざまな立場の人が対話しながら公教育をアップデートしていく。そのロールモデルをまず奈良・天理という場所でつくりたいんです。
――その場所で、子どもたちに何を伝え、どのような力を身に付けてほしいですか。
吉田田:僕たちは「つくるを通していきるを学ぶ」という考え方を大切にしています。人生に正解はありません。ですから、大事なのは、自分なりの答えを見つける力です。
何かをつくる過程では、失敗もあるし、人と意見がぶつかることもある。でも、その経験を通して自分を知り、人と関わり、社会とつながることができる。そうしたプロセスこそが生きる力になると思っています。


子どもたちが「生きる力」を養うために、私たち一人一人ができること
最後に、吉田田さんに、すべての子どもたちが “みちをつくる人”になるために、私たち一人一人ができることについてアドバイスをいただきました。
[1]多様な価値観を受け入れる
自分のなかにある1つの正解で物事を評価するのではなく、多様な価値観を認め、尊重することが、子どもたちの選択肢を広げる
[2]子どもを信頼する
子どもは本来、自ら学び、表現し、成長する力を持っている。大人の役割は管理することではなく、その力を信じて見守ること
[3]大人自身が楽しく生きることを大事にする
子どもたちは大人の背中を見て育つもの。大人が学び続けたり、挑戦したり、仲間と笑い合ったりしている姿は、それだけで子どもたちにとって希望になる
子どもを変える前に、大人が変わる——シンプルな言葉ですが、取材後もしばらく頭から離れませんでした。不登校というと、どうしても子ども側に原因や解決策を求めてしまいがちです。しかし吉田田さんの話を聞いていると、問われているのはむしろ大人の価値観や社会の在り方なのだと感じます。
子どもたちが自分らしく生きられる社会をつくるために、まずは私自身が「正解は1つではない」という視点を持てているだろうか。そんなことを考えさせられました。
未来の学校づくりは、学校だけの話ではありません。私たち一人一人が、自分の当たり前を少しずつアップデートしていく。その先に、子どもたちの新しい選択肢が生まれるのかもしれません。
撮影:大久保啓二
吉田田タカシ(よしだだ・たかし)
教育者、デザイナー、ミュージシャン。大阪芸術大学在学中の1998年、クリエイティブスクール「アトリエe.f.t.」を開校。2020年に放課後等デイサービス「bamboo」を併設。2021年には、「まほうのだがしや チロル堂」を共同代表として設立し、独創的な仕組みが2022年度グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)を受賞。2022年に教育システムを進化させる対話の場「トーキョーコーヒー」を立ち上げる。2025年、「トーキョーコーヒー」の仕組みがグッドデザイン賞受賞、「私の選んだ一品」(新山直広審査員)にも選出された。同年、キッズデザイン賞奨励賞キッズデザイン協議会会長賞受賞。
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