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災害時、言葉にできない不安を抱える子どものために、大人が知っておくべき「心のケア」とは?
- 災害という非常事態に対して、子どもに心や体の不調、行動の変化が表れるのは正常な反応
- 災害時、子どものSOSは気づきにくい。また、発災時のショッキングな映像を見たり、取材を受けたりすることは心の大きな負担になる可能性も
- 大人は子どもに表れやすいストレス反応を理解し、災害時も子どもが安心して過ごせるよう守る責任がある
取材:日本財団ジャーナル
もし、大規模災害でいつもの生活が失われたら――。
突然日常が奪われ、家族や地域の人たちも余裕を失う状況で、子どもに対してどう接すればよいのか、戸惑う保護者も少なくありません。
大規模災害では、家の倒壊や親族との離別、慣れない避難生活といった非日常の中で、子どもたちは強いストレスを抱えやすくなります。
しかし、発達の途中にある子どもは、不安や恐怖を言葉で表現できないこともあります。その代わりに、「赤ちゃん返り」「無口になる」といった行動の変化、情緒の不安定、体調不良という形でストレスを表出させる場合があります。
そんなとき、子どもの心を回復させるために重要な役割を担うのが、保護者や教師、地域住民などの身近な大人です。一方で、大人自身も被災という非常事態にあるため、子どもの変化を適切に理解し、細やかに対応することも難しい状況にあります。
そこで参考にしたいのが、一般社団法人日本児童青年精神医学会 災害対策委員会が作成した『災害下における子どものこころのケアの手引きとリーフレット』です。東日本大震災や熊本地震などの支援経験と医学的知見をもとに、子どもに起こり得る変化や、大人ができる対応を分かりやすく解説しています。
自然災害が多く発生する日本では、いつ誰が被災し、避難所で子どもと共に生活することになるかは分かりません。本記事では、日本児童青年精神医学会の中西大介(なかにし・だいすけ)さんに、災害時に子どもに起こりやすい変化と、身近な大人ができる心のケアについてお話を伺いました。

災害時、「行動」「心」「体」に表れる「変化」は正常な反応
――大規模災害が起こったとき、子どもはどんなストレスを抱えやすいのでしょうか。
中西さん(以下、敬称略):まず挙げられるのが、「災害による破壊と喪失によるストレス」です。具体的に言うと、大切な家族や友人、ペットなどとの別れ、それまでの生活空間や大切なおもちゃ、思い出の品などを失うことです。
さらに、被災によって生活様式が劇的に変わることによる二次的なストレスも生じます。長く続く避難所や仮設住宅での生活、転居などは、子どもにとって大きな負荷となり得ます。
これらのストレスは、「行動の反応」「心の反応」「体の反応」といったさまざまな形で表れることがあります。
いずれも、非常事態から心や体を守るための正常な防衛反応です。私たちは、こうした反応がどんな子にも起こり得ると知っておく必要があります。
――知識がなければ、病気による不調やわがままだと思ってしまう人も多そうです。
中西:年齢や発達段階によって異なりますが、症状や特徴がはっきりしない上、子ども自身が自分に起きている変化を捉えて、言葉で表現するのは難しいことなので、見落とされたり、誤解されたりしやすいんです。
それに、災害時は大人も余裕がなく、子どもの些細な変化に気づきにくくなります。
――こうした反応は、いつ頃治まるのでしょうか。
中西:回復の経過は個人差が大きいのですが、ほとんどの子どもは「安心・安全を実感できる生活」を送るうちに回復していきます。
また、災害が発生してから1カ月程度の間に適切なケアを受けられると、精神医学的な問題が起きるのを一定程度予防できると考えられています。
ただし、生活が再建されても不安定さが続くときは、自治体の子育て支援の窓口や保健師、スクールカウンセラー、かかりつけの小児科などに相談しましょう。必要に応じて、専門的な医療機関を紹介されることもあります。


被災によって失われる「世界への基本的な信頼感」
――被災した子どもには、どう接すればいいのでしょうか。
中西:大人が子どもの変化に過敏に反応すると、かえって不安を強めることがあります。「災害時、子どもにストレス反応が表れるのは正常」だと認識し、できるだけいつもと同じように接すること、規則正しい生活を維持することが大切です。
子どもにとっての被災経験は「世界に対する基本的な信頼感や安心感」が失われる衝撃的な出来事です。無力感にさいなまれ、自分自身に対する信頼や自信さえも失います。そこから回復するには「自分は独りぼっちじゃない。周りの大人から守られ、尊重されている」と感じられることが重要です。
子どもの変化を受け止めるには大人自身の安定も必要です。しかし、非常事態にいるのは大人も同じ。心や体にさまざまな反応が表れることも当然あります。
大人もつらいときは周囲に相談し、助けを求めましょう。そうした姿は、子どもにとって「人を頼ってもいい」という手本にもなります。
――子どもに安心感を与えられる、具体的な行動を教えてもらえますか。
中西:まずは、真摯に話を聞くことですね。余計なことを言わず、根掘り葉掘り質問せず、本人が話したいことを、話したいときに、話してもらう。感情が爆発しても受け止める。そうした関わりの繰り返しで、不安定さは徐々に落ち着いていきます。
自分の心身の変化に戸惑う子どもには、なぜそうしたことが起きるのか、その子が理解できる言葉で説明しましょう。その上で「誰にでも起こることなんだよ」「つらさは無理に押さえ込まず、外に出していいんだよ」と伝えてください。
生活が徐々に戻り、学校での集団生活が再開すると、「被災したのはみんな同じなのに、自分だけが泣き言を言っている」と感じ、不安な気持ちや自身に起こっている体験を表に出しにくくなる子もいます。
そうした子には、「相談したいときには相談できる環境があるよ」と繰り返し伝え、これまで日常的に関わってきた大人と近況を話せる機会をつくることも大切です。
――被災した子どもは「地震ごっこ」や「津波ごっこ」をすることもあると聞きます。大人はどう対応すべきでしょうか。
中西:子どもはそれらの遊びを通して、心の中の不安を表現し、克服しようとしているんです。不安や恐怖が解消されれば、こうした遊びは徐々に消失します。「不謹慎だ」といった言葉で否定や禁止をせず、見守るのが原則です。
ただし、その遊びを見て嫌がる子がいるときは、別の場所に誘導しましょう。また、遊びによって不安がますます高まっている様子を目にしたら、穏やかに介入し、安心・安全な結末に誘導するといった配慮も必要です。


死別を経験した子、障害のある子、特別な配慮が必要な子
――家族や大切な人を亡くした子どもには、どう関わればいいのでしょうか。
中西:子どもが幼い場合、大人は「言っても理解できないだろう」と思い込み、死について語ることを避けがちです。
しかし、大切な人の死をその子が理解できるよう、丁寧に伝え、語り合うことは、子どもが何歳であっても必ずしてほしいです。
その際、できるだけシンプルに分かりやすく伝えることが重要です。例えば、「遠く長い旅に出た」「長い眠りについた」といった表現を使うよりも、正確な事実を必要なだけ伝えてください。事実を曖昧にして放置すると、逆に不安を強め、死を自分の落ち度や責任と思い込む可能性があるからです。
大切な人の死を理解した子どもは、当然ながら悲しみや怒りをあらわにすることもあります。その子が自分の感情を出しても構わないと思えるよう、感情の表出をさえぎらないようにしてください。
お通夜や葬儀にも、本人が希望するなら参加させましょう。嫌がる場合は無理強いをせず、線香やろうそくを灯してお祈りをする、亡くなった方の写真を整理する、という形で簡単なお別れの儀式を行うことも1つの方法です。
そうした体験を通して、徐々に喪失の悲しみを乗り越え、いずれは前に進めるようにつなげることが大切です。
――発達障害や知的障害のある子どもとの、被災後の関わり方についても教えてください。
中西:一人一人特性が異なるので、支援の方法はさまざまです。しかし、普段と違う支援をすると、余計に混乱を助長してしまうこともあります。家族以外の大人は、本人や家族をよく知る支援者に、対応策や支援法を確認してもらえたらと思います。
発達障害のある子どもは変化が苦手で、周囲の刺激の影響を受けやすい傾向があります。また、見通しの立たないことに強い不安を感じることも多いです。
避難生活では、「感覚の過敏さや鈍感さが強くなる」「不安から奇妙な行動をする」「落ち着きがなくなる」「他者の働きかけに強い抵抗を示す」といった特徴が目立ちがちです。情動の不安定さから大声を上げたり、衝動的に自傷や他害に至ったりすることもあります。周囲の大人が、彼らの不安を軽減できるように関わることがとても重要です。
――どうすれば不安を軽減できるのでしょうか。
中西:可能な範囲でその子に適した環境調整をすること、簡単な日課を作って見通しが持てる生活をできるよう支援することがカギになります。
また、家族に発達障害や知的障害のある子がいる場合は、子どもの特性を周りの人に伝え、理解を求めていくことも大切です。
障害のある子どもがいる家庭は、周囲に遠慮して避難所での生活を避け、車中泊や損壊した家での孤立した生活を余儀なくされているケースもあると聞きます。それを避けるためにも普段から地域の中でつながりを持ち、頼れる関係性を築いておくとよいでしょう。

報道に映る被災地の子どもの笑顔、実際は深く傷ついていることも
――被災をきっかけにPTSDや抑うつ、不安障害などを発症する子どももいると聞きます。発症リスクを上げる要因にはどのようなものがありますか。
中西:この点については、不確かな回答を避けるため、学術的な説明になることをご理解いただければと思います。
東日本大震災後の実践報告や研究データを見ていると、震災から数年を経てトラウマに関連する症状で受診する子どもの特徴として、以下の点が挙げられます(※1)。
- 震災前に何らかのトラウマ体験がある
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状がみられる
- 情動コントロール(※2)の困難さがある
- 対人不信や否定的自己観など、対人的な傷つきの蓄積による問題を持っている
- 診断ができるかどうかは別として、発達障害の特性を持っている
また、さらに長期的な治療が必要となる子どもは、次の特徴も併せ持ちます。
- 圧倒的な喪失体験を持っている
- 行動と情緒の問題が深刻である
- 転居や転校によって、トラウマ体験を共有できる仲間がいる環境に置かれていない
- 家族のサポートが得られにくい環境に置かれている
- ※ 1.出典:「被災地の子どものこころのケア 東日本大震災のケースからみる支援の実際」編著,松浦直己 著者,八木淳子・福地成・枡屋二郎:2018中央法規出版
- ※ 2.「情動コントロール」とは、不安や怒り、焦りなどの不快な感情によって生じるストレスに対し、自分の気持ちや状況を整理し、感情の高ぶりを落ち着かせていく働きのこと
――では、災害後に子どもが精神疾患を発症するような深刻な問題は、周囲の環境や支援によって軽減できるのでしょうか。
中西:自然災害ではありませんが、2001年の「アメリカ同時多発テロ事件」の後にも、PTSDや広場恐怖症(※1)、予期不安(※2)、アルコール依存などの精神疾患を抱える子どもが報告されています。
ただし、爆心地周辺の地域(グラウンド・ゼロ地区)の学校に通っていた子どもたちは、精神的な問題の程度がむしろ軽かったことが分かっています(※3)。これは、事件後に行われた、手厚い社会的サポートとメンタルヘルス支援の結果によるものと推測されています。
つまり、ニーズに合わせた社会的なサポートや心理的な支援の介入によって、精神的な問題の発生はある程度予防、軽減できる可能性があるということです。このことは、希望となり得る情報ではないでしょうか。
ちなみに、同時多発テロ後の研究では、報道への曝露、つまり被災地のショッキングな映像を目にすることが、子どもの精神的な問題の発生リスクを増大させることも明らかになりました。
- ※ 1.「広場恐怖症」とは、特定の場所(広場に限らない)で、強い恐怖や不安を感じてしまい、日常生活に支障をきたす病気のこと
- ※ 2.「予期不安」とは、発作が起こっていないときに、また発作を起こすのではないか、次に発作が起こったら死んでしまうのではないか、あの場所に行ったら発作が起こるのではないかと不安に感じる症状のこと
- ※ 3.出典:Hoven et al. Psychopathology among New York City public school 6 months after September 11.Arch Gen Psychiatry 62:545-552,2005
――報道で被災地のショッキングな映像を目にする影響について、詳しく教えてください。
中西:災害発生時に報道される被災地のリアルな情報は、大人にとっては必要なこともあります。ただし、子どもが目にした場合は強い不安や動揺を引き起こしかねません。
さらに、ネット上で規制なしに溢れる情報の中には、とてもショッキングなものがあるにもかかわらず簡単に閲覧できてしまうものもあります。
このことは、全国の多くの児童精神科医が憂慮している事態のひとつです。報道関係者も周囲の大人もこの重大さを理解し、子どもを守る責務を強く認識してもらいたいです。
――また、被災地の子どもの様子を伝える報道については、どのような点に注意が必要でしょうか。
中西:報道を見ていると、避難所で子どもが元気そうにしている姿が映し出されることがありますよね。見ている人は「被災地でも元気に過ごしている子がいるんだ」と安心したり、勇気付けられたりするかもしれません。
しかし、実際には、深く傷つき、疲れている子どもがカメラを向けられ、知らず知らずのうちに演技をしていることもあります。
子どもたちは「みんなで頑張ろう」というシンボルとして扱われがちですが、彼らは俳優ではありません。周囲の大人は子どもへの配慮が必要であることを理解し、「取材に協力するかしないかは、自分で選んでいいんだよ」と伝えることで、子どもを守ってほしいです。
災害時の子どものケアの拡充には、複数分野の連携が不可欠
――「災害時の子どもの心のケア」に関する体制の現状と、今後の展望を聞かせてください。
中西:現在もすでに、医療、保健、教育、福祉などの分野で支援が行われており、今後の支援についても検討が進められています。ただ、それぞれの分野に従事する人たちが、互いの準備や取り組みについて知る機会は極めて限定的です。本来は、複数の分野が「連携する」必要があります。
というのも、実際に災害が起こったとき、1つの機関だけでは対応しきれない可能性が高いからです。ただ、どの分野でも人手が不足しているため、災害時の他機関との連携を平時から検討する余裕がある機関はほとんどありません。各地域の子どもに関わる職員が一堂に会し、災害に関する研修会を開く機会が必要だと思います。
災害をはじめとするさまざまなストレスによって心的外傷を受け、治療が必要になる子どもは決して珍しくはありません。今後はぜひ、国や自治体が主導して各地域にトラウマケアの拠点施設を設置し、専門人材の育成や災害時の心のケア体制の整備を進めてほしいです。

- ※ 上記の資料は、災害時の子どものこころのケアに関する基本的な考え方をまとめたものであり、実際の支援では被災地の状況に応じた対応が求められる。また、平時の備えの重要性を踏まえて公開しているもので、使用の際は改変せず現行のまま利用することが求められている
被災した子どもを支えるために、私たち一人一人ができること
災害時に子どもたちを支えるために、私たち大人にできることについて、中西さんから3つのアドバイスをいただきました。
[1] 平時から「災害時の子ども特有の反応」について知っておく
子どもが災害時にどんな反応を示すかをあらかじめ知っておけば、適切な対応をとれるようになる。日本児童青年精神医学会が公開している「被災地支援者向け講義資料」「保護者向けリーフレット」「災害時の障害児への対応のための手引き」を参考に、正しい知識を身に付けておく
[2] 地域で顔の見える関係をつくっておく
普段から地域住民同士のつながりをつくっておくことが大切。特に障害のある子どもがいる家庭は、子どもの特性から避難所を避けてしまうこともある。日頃から関係を築いておくことで、いざというときに支え合いやすくなり、子どもの変化にも周囲の大人が気づきやすくなる
[3] 子どもを支える大人も、自身の心のケアをする
災害時は子どもも大人も被災者。自分自身も傷ついている可能性があり、ストレス反応が表れるのは自然なことだと理解し、助けを求めたり休息をとったりして、心のケアをおざなりにしない。そうした大人の姿勢を見せることが、子どもが素直に傷つきを表現できる環境につながる
昨今では、「災害後のこころのケア」の必要性について話題になることも増えましたが、「子ども特有のこころのケア」に焦点が当たるのは、どうしても後回しになりがちだと感じ、中西さんにお話を伺いました。
中西さんが語ってくれた、「災害によって、子どもは世界や自分自身に対する信頼感を失う」「非常事態の後にストレス反応が起こるのは正常」「過剰に反応せず、普段通りの生活を守ってあげることが大切」という事実。災害によって傷ついた子どもと接する可能性が誰にでもあると考えると、全ての大人が知っておくべきことだと感じました。
また、報道を通じて被災地のショッキングな映像を目にすることや、被災地の子どもが取材を受けることのリスクについてのお話がとても印象的でした。多くの場合、子どもたちは自分の意思でこうした事態を回避することはできません。私たち一人一人が、大人として子どもの心を守る責任を負うことの大切さを痛感させられる取材でした。
- ※ 記事内で紹介している日本児童青年精神医学会の資料は、同学会の公式ホームページ(外部リンク)で閲覧可能
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。