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【おもちゃが紡ぐ親子の絆】社会がこの子と一緒に笑顔になってほしい。難病児の親がおもちゃセットに託す想い

写真:左下はボールを転がすおもちゃで遊ぶ難病の子どもと親御さん。左上は緑の布のおもちゃで遊ぶ難病の子どもと健常の子どもと親御さんたち。右上は「あそびのむし」のキャラクターが描かれたステッカー。右下は音を奏でるマットで遊ぶ難病の子どもと健常の子どもとその親御さん
難病児とその家族のためのおもちゃセット「あそびのむし」のお披露目会の様子
この記事のPOINT!
  • 難病の子どもにおもちゃを選ぶ基準が分からず、療育目線になってしまう
  • 難病の子どもだって、自分も、親も笑顔になれるおもちゃがほしいはず
  • 「あそびのむし」を通して願うのは、みんながつながり合える社会の実現

取材:日本財団ジャーナル編集部

難病の子どもとその家族にこそ“遊び”が必要だ――。

そんな想いからスタートしたプロジェクト「あそびのむし」(別ウィンドウで開く)。これは東京おもちゃ美術館(別ウィンドウで開く)の副館長を務める石井今日子さんと、日本財団職員の中嶋弓子さんが中心メンバーとなり、難病の子どもとその家族が夢中になって楽しめるおもちゃのセットを制作するという取り組みだ。

2人の出会いから3年。その「あそびのむし」がついに完成した。それを記念し、2020年1月13日、東京おもちゃ美術館に難病の子どもたちとその家族を招待して、お披露目会が開催された。

「あそびのむし」とはどんなおもちゃなのか。どんな遊びが体験できるのか。そして、難病の子どもたちとその家族は、「あそびのむし」をどう受け止めるのか。お披露目会の様子と、実際に参加した人たちの生の声をお届けする。

大切なのは、子どもも大人も夢中になって遊べること

難病の子ども向けのおもちゃと聞くと、大多数の人たちは“療育”を目的としたものを思い浮かべるのではないだろうか。もちろん、それも間違いではない。

けれど、「あそびのむし」が大切にしているのは、もっとシンプルなもの。それは3つのポイントに集約されている。

  1. 時間を忘れて、夢中になろう!
    • 医療的ケアや重度の障害があっても、夢中になる遊びを見つけたい!
  2. ワクワク、ドキドキを育てよう!
    • 教育、療育だけが目的なのではない、ワクワクドキドキの遊びをしたい!
  3. ワイワイみんなで遊ぼうよ!
    • あなた遊ぶ人、私見てる人じゃない、一緒に過ごす大人も楽しく遊びたい!

一つのおもちゃを前にすれば、子どもも大人も関係ない。もちろん、健常者も障害者も、難病がある人もみんな一緒。自分の立ち位置を忘れて夢中になって遊ぶことで、自然とコミュニケーションが生まれ、笑顔の花が咲く。「あそびのむし」は、そんな瞬間を大切にしているのだ。

では、実際にどんなおもちゃがセットの中に詰め込まれているのか、遊び方と共に紹介しよう。

[クネクネバーン・大]

木の車を台の上に乗せれば、テンポの良い音を奏でながらリズミカルに坂を下っていく。繰り返し遊びに、誰もが夢中になってしまう定番のおもちゃ。

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クネクネと車がリズミカルに坂を下る「クネクネバーン・大」

[デュシマこま]

どんな回し方でも失敗しない宝石を散りばめたようなコマ。キラキラと輝くジュエルが回る様子がとても美しい。

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ジュエルの色や手触りも楽しめる「デュシマこま」

[ドレミマット]

マットの中心を踏むと、空気圧によってハーモニカのような音色が鳴り響く。歩くのが苦手な子どもでも、音色を聴いているだけで陽気な気分に。

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踏むと音を奏でる「ドレミマット」。スポンジ製で柔らかく、安全に遊べる

[歩く動物(とことこ動物)]

木でできた愛らしい動物を台の上に乗せれば、カタッカタッと音をさせながら坂を下っていく。ゆったりとした動作と心地よい音色に癒される。

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トコトコとかわいい動作で木製の動物が坂を下る「歩く動物(とことこ動物)」

[カエルさんジャンプ]

カエルの背中を押さえてはじくと「ビョン!」。バケツを的にカエルを飛ばすジャンピングゲーム。親子で競えば盛り上がること間違いなし。

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指先の動作にも効果的なおもちゃ「カエルさんジャンプ」

[アーチレインボー]

表面が滑りにくい、フェルトのような感触の積み木。虹色のトンネルをつくったり、シーソーにしてみたりと、子どもの想像力に応じて遊び方は無限大。

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いろんな積み方が楽しめる「アーチレインボー」

これはほんの一部。「あそびのむし」には、世界中から選りすぐられた珍しいおもちゃが約40種類も詰め込まれているのだ。

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夢中になって遊べるおもちゃがたくさん詰まった「あそびのむし」の箱

おもちゃを通じて生まれる、コミュニケーションの輪

実際、お披露目会当日には、これらのおもちゃを目にした子どもたち、そして親御さんたちから歓声が上がった。

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子どもたちと一緒に「あそびのむし」の箱を開けた瞬間

まずはそれぞれの子どもたちの自己紹介も兼ねて、柔らかい布を使った遊びに挑戦。どの子もふわふわと漂う布の動きに興味津々の様子で、体の自由が効かない子どもも目で動きを追いかける。

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子守唄のようなやさしいメロディに合わせて布を上下させると、途端にはしゃぎだす子どもたち

続いては、琉球のメロディが奏でられる木琴「小さな森の合唱団」、持ち運べるドラム「レモ・サウンドシェイプス」など、音が出るおもちゃを使った遊び。普段聴き慣れない音が響くたびに、子どもたちはびっくりしたり、キョトンとしたりと表情をくるくるさせる。

最後に設けられたのは、自由タイム。それぞれに興味があるおもちゃで自由に遊べる、とびきり楽しい時間のスタートだ。

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体を自由に動かすことが難しい子どもの前で、夢中になって皿回しを披露するお父さん
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お父さんやお母さんに抱かれながら「ドレミマット」の音色を楽しむ子どもたち
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指先でカエルを弾いて遊ぶ「カエルさんジャンプ」にチャレンジする子ども

お披露目会は1時間半ほどで終了したが、最初から最後までみんなの笑顔が絶えないイベントだった。一生懸命になって遊びに熱中する子どももいれば、お父さんやお母さんが遊んでいる様子を見てうれしそうに笑っている子どもも。

何よりも印象的だったのは、そこかしこで“会話”が生まれていたことだ。「パパがやって見せるからね」「これ、どうやって遊ぶの」「お兄ちゃん、上手」と、みんなが“病気”のことを忘れて、その場を楽しむことに夢中になっていた。

これこそが、「あそびのむし」が目指していた姿だ。おもちゃを通じて、みんなが一つの輪になってほしい。そんな想いを込めて開かれたお披露目会は、誰もが“遊びの虫”になっていた。

難病の子どもだって楽しく笑えるおもちゃがほしいはず

お披露目会で「あそびのむし」を体験してみて、実際にどう感じたのか。イベント終了後、2組の親子が話を聞かせてくれた。

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写真左から日本財団の中嶋さん、東京おもちゃ美術館の石井さん、インタビューに答えてくれた嵯峨さん親子、峯尾さん親子

話を聞かせてくれた嵯峨(さが)さん、峯尾(みねお)さんは、難病の子どもとその家族向けに東京おもちゃ美術館を貸し切りにするというイベント「スマイルデー」(別ウィンドウで開く)にも参加したことがあるという。どちらも、「子どもたちを家に閉じ込めたくはないんです」と微笑む。

嵯峨さん「私はお出かけするのが好きなので、療育のための通院もさほど気にならないんです。むしろ、予定を詰め込んで、子どもと一緒に外に出ます。もちろん、ジロジロ見られることもあるんです。特に外で出会った子どもたちは、正直に『この子、赤ちゃんなの?』って聞いてきたりして」

写真:インタビューに答える嵯峨さんの奥さんと、膝の上に抱かれる嵯峨さんのお子さん
「片側巨脳症(へんそくきょのうしょう)」という難病のある嵯峨さんのお子さん

しかし、そうして難病の子どもと触れ合う機会を持つことは、健常者の子どもたちにとっても社会を知るきっかけになるのではと、嵯峨さんは話す。

そんな嵯峨さんの思いに峯尾さんも同調する。

峯尾「誰も知らないような難病の子どもが、実は身近にいるんだってことを知ってもらいたいんです。同時に、そんな子を抱えているからといって、不幸だとは思ってほしくない。大変なことだってありますけど、私たちの日常って普通なんですよ。通院の支度をしながら動画を観てゲラゲラ笑ったりもしますしね」

写真:インタビューに笑顔で答える峯尾さんの奥さんと、胸に抱かれる峯尾さんのお子さん
峯尾さんのお子さんは、日本で100人も存在しないという「アイカルディ症候群」を患っている

難病の子どもとその家族の本当の姿を知ってほしい。だから敢えて外に出ることを心掛けていると、峯尾さんはいう。

そんなアクティブに活動している嵯峨さん、峯尾さん親子は、おもちゃ選びに悩みを抱えている。

嵯峨さん「おもちゃ売り場に行くと『何歳以上対象』と表示されているものばかりで、難病の子どもはどれで遊べばいいのか分からないんです。そして、結局は療育を目的としたものを手に取ってしまう。でも、本当は、この子が笑って楽しむものを選ぶべきなんですよね」

療育は子どもにとっては仕事みたいなもので、純粋に楽しめるものではなかったのだと、今回の体験を通して気付いたと嵯峨さんはいう。

峯尾さん「私もおもちゃを選ぶ時は、療育目線で選んでしまっていました。だけど、親が療育とか知育に一生懸命になっているよりも、今日みたいに皿回しに苦戦している姿を見せてあげたほうが子どももうれしいんじゃないかな、と気付かされました」

親が大変そうにしている姿よりも、楽しそうにしている姿を見るほうが子どもだってうれしいはず。そんな当たり前のことを忘れていたと峯尾さんは話す。

「みんなが一緒に笑い合える社会」が訪れてほしい

嵯峨さんも峯尾さんも、「あそびのむし」を通じて、おもちゃが持つパワーを改めて実感した様子。そして、きっとこれからは、「あそびのむし」が中心となり、嵯峨さん、峯尾さん親子の輪はどんどん広がっていくに違いない。

そうなったとき、どんな未来や社会を望むのだろうか。

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お披露目会を振り返り、「本当に楽しかった」と笑う嵯峨さんと峯尾さん

嵯峨さん「将来、私たち親がいなくなってこの子だけになった時に、一人ぼっちになるのではなく、社会がこの子と一緒に笑顔になってくれたら良いなって。この子のことを『かわいそう』だと思ってくれたって構わないから、その代わりに、そっと手を差し伸べてもらいたいんです。障害のある子、難病の子が除外されるのではなく、“一緒に生きていく社会”が訪れたらうれしいですね」

峯尾さん「本当にそう思います。現代の日本って、みんな遠慮がちで。誰かが動き出さない限り自分も動けない、という人が多いと思うんです。でも、溺れている人を見つけたら、遠慮なんかせずに浮き輪を投げてほしい。私たちは、まさにその溺れている人なんです。だから誰もが遠慮なんかせずに、『手伝いましょうか?』って声を掛けてくれる社会になってくれることを願っています」

取材中、とても印象的な出来事があった。一人の子が、取材陣におもちゃを手渡してくれたのだ。その瞬間、以前、石井さんが言っていた「おもちゃを介して、みんなが輪になるんです」という言葉を思い出した。

おもちゃには、子どもとその家族をつなげるパワーはもちろん、ときには知らない人をもつなげてしまう引力すらある。そうやって、人と人とがつながっていった先に待っているのは、誰もが手を取り合うことのできる“共に生きていく社会”なのだろう。

そして、「あそびのむし」でみんなが一つになれることを知った子どもたちが大人になったとき、確かに社会は大きく変わっていくのではないかと感じた。

撮影:永西永実

特集【おもちゃが紡ぐ親子の絆】

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。
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