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【おもちゃが紡ぐ親子の絆】新たに見えてきた難病の子どもの「遊び」のかたち。「あそびのむし」オンライン説明会
- 難病児とその家族のためのおもちゃセット「あそびのむし」のオンライン説明会が開催された
- 同じおもちゃを使って遊べば、オンラインでも楽しい時間を共有し、友達をつくることができる
- 「あそびのむし」を通して、子どもも大人も一緒になって楽しめる時間を創出する
取材:日本財団ジャーナル編集部
日頃、医療的ケアに追われる難病児とその家族にこそ、ただ夢中になって楽しめる「遊び」の時間が必要だ。そんなの想いのもと開発されたおもちゃセット「あそびのむし」(別ウィンドウで開く)。
これは東京おもちゃ美術館(別ウィンドウで開く)の副館長である石井今日子(いしい・きょうこ)さんと、日本財団職員の中嶋弓子(なかじま・ゆみこ)さんがタッグを組み、進めてきたプロジェクトだ。
スタートしたのは2019年初夏。難病や障害で思うように動けない子どもたちにとって、どんなおもちゃが必要なのか。石井さんと中嶋さんは試行錯誤を繰り返した。そして半年後、ようやく「あそびのむし」が完成。そこには世界中から選りすぐられた色とりどりのおもちゃが約50種類も詰め込まれた。
そんな「あそびのむし」は、2020年12月から2021年2月にかけて、全国にある約100カ所の難病児を支援する施設と病院に配布。そして、2021年3月に、配布先のスタッフに向けたおもちゃの遊び方、難病の子どもとのコミュニケーションをレクチャーするオンライン説明会が実施された。
説明会当日は、スタッフだけでなく施設に通う難病の子どもたちやその家族も参加し、大勢の人が一緒になって楽しいひとときを共有した。今回はその様子をご紹介する。
ただ「遊ぶ」ことを楽しむために開発された「あそびのむし」
3月上旬、東京おもちゃ美術館を発信拠点にオンライン説明会が開催された。全部で2部構成となり、第1部が「あそびのむし」とおもちゃの説明、第2部が東京おもちゃ美術館に在籍するおもちゃコンサルタント(※)による“楽しい”おもちゃの遊び方の講習会となる。
- ※ 認定NPO法人「芸術と遊び創造協会」(別ウィンドウで開く)が実施する日本で唯一の総合的なおもちゃの認定資格
その日、集まったのは約50名の参加者。病院や施設で働く人たちが「あそびのむし」の使い方を真剣に学ぼうとしている様子が伺える。中には難病の子どもたちと一緒に参加する人たちもいて、開始前から東京おもちゃ美術館の石井さんがうれしそうにコミュニケーションを図った。
説明会が始まると、まず中嶋さんから日本財団が取り組む難病の子どもとその家族を支えるプログラム(別ウィンドウで開く)の概要や、「あそびのむし」プロジェクトの目的、開発経緯、どんな想いでここまで駆け抜けてきたかが語られた。次いで石井さんから、「あそびのむし」に詰めたおもちゃはどんな基準で選ばれたのか、説明があった。
石井さん「お母さんたちはどうしても療育やリハビリの役に立つおもちゃを選びがちです。でも、そればかりだと親も子も疲れちゃう。ただただ、遊ぶことが楽しくなるものを選びました。難病や障害があっても、子どもは子ども。おもちゃを通して、いろんな経験をしてもらいたいんです。また、みんなが一緒になって楽しめる、みんなが集まる場をつくるようなおもちゃセットにしたくて、親御さんはもちろん、きょうだい、祖父母とも一緒に楽しめるようなものも入れています。使いやすいものばかりなので、時間に追われる中でもさっと取り出して遊んでもらえるとうれしいです」
医療的ケアに追われると、どうしても遊びは後回しにしがち。けれど、石井さんが言うように、子どもは遊びを通して、好奇心や想像力、工夫する力、いろんな力を養っていく。それは難病の子どもたちも一緒。だから「あそびのむし」を大いに活用して欲しいと、石井さんは参加者に呼びかけた。
その後、おもちゃ一つひとつに対し使用上の注意やメンテナンスの仕方について丁寧な説明があり、第1部が終了した。
おもちゃを使って、みんなで遊びながら学ぶ
休憩をはさみ、第2部のおもちゃコンサルタントによる「あそびのむし」の遊び方の講習会がスタート。担当したのは、おもちゃコンサルタントの中でもベテランである、高橋朝子(たかはし・ともこ)さん、齋藤暁子(さいとう・あきこ)さん、加藤理香(かとう・りか)さんの3人だ。
オンライン画面の先にいる病院や施設のスタッフ、子どもたちに向けて、楽しく愉快にレクチャーを始めた。
おもちゃコンサルタントが軽快な数え歌に合わせて一つひとつのおもちゃの遊び方を披露すると、それを手本に参加者全員がおもちゃと戯れる。パペットを使ってのお料理ごっこや、椅子にもバケツにもなるおもちゃを使っての玉入れ競争、皿回し大会、音の鳴る玩具を使っての演奏会など、みんなで一緒に遊びながら学び、子どもも大人も大はしゃぎ。オンラインとは思えないほどの一体感あふれる講習会となった。
最後の質疑応答の時間に寄せられたのは質問だけではなく、「遊び方が大変参考になった」「汗だくになって楽しめた」といううれしい感想も。こうして、参加者全員が笑顔になれるアットホームな説明会は幕を下ろした。
「あそびのむし」が楽しい時間と人のつながりをつくる
説明会を終えて、主催者側はどのような手応えを感じたのだろう。東京おもちゃ美術館の石井さん、おもちゃコンサルタントの皆さんに感想を伺った。
石井さん「研修会をするにあたって、病院や施設の方々には『できれば子どもたちも誘ってくださいね』と声をかけていたんです。でも、難しいだろうな…と思っていました。それが ふたを開けてみれば子どもたちも多くて、とてもうれしかったですね」
加藤さん「子どもたちがどれくらい参加してくれるのか分からなかったので、盛り上がらなかったらどうしようと不安でした。結果的には参加してくれた子どもたちも一緒に遊んでくれて、相乗効果で大盛り上がりでしたね」
こうしておもちゃの説明会も終わり、これからは全国各地で「あそびのむし」の活用が本格的にスタートする。皆さんは、これから何を願うのか。
高橋さん「『あそびのむし』はまさに『遊び』の時間を充実させるためのもの。どんな子どもたちにも、おもちゃを使って楽しい時間を過ごしてもらいたい。それが私たちおもちゃコンサルタントの願いなんです」
齋藤さん「同時に、大人にも楽しんでもらいたくて。病院や施設で働く大人は、どうしても医療的ケアに時間を取られてしまいます。もちろんそれは大事なこと。でも、おもちゃを使って、子どもたちと一緒に楽しい時間を重ねてもらいたいんです」
石井さん「そうですね。以前、とある通所施設を見学した時に、ちゃんとしたおもちゃがほとんど用意されていなかったことに驚きました。お下がりでもらったぬいぐるみなどは並んでいましたけど、その光景にショックを受けて。難病や障害のある子どもたちにも、本当に良いおもちゃを使ってもらいたい。だから、『あそびのむし』を全国に配布したんです。これを機に、病院や施設で働くスタッフさんたちにも遊びの重要性を理解してもらいつつ、自分たちも楽しんでもらいたい。それがお仕事の励みになったら最高ですよね」
2019年にスタートした「あそびのむしプロジェクト」も、完成品の配布が完了し、ようやく一段落。と思いきや、石井さんは次の展開も考えているようだ。
石井さん「せっかく全国の子どもたちのもとに届けられたので、今後はオンラインを活用したイベントもやってみたいですね。同じおもちゃを使えば、遠く離れている子ども同士でもおままごとができたりする。全国各地にお友達がつくれるわけです。このオンライン説明会を行ったことで、『あそびのむし』のさらなる可能性が見えてきました」
「あそびのむしプロジェクト」は、これからが本格的なスタート。次なる展開に大いに期待したい。
撮影:永西永実
特集【おもちゃが紡ぐ親子の絆】
- 第1回 難病児を育てる親の「子どもと遊べるなんて知らなかった」という声から生まれた“おもちゃセット”が目指す社会
- 第2回 おもちゃコンサルタントに聞く、難病児の親子に「遊び」が大切な理由
- 第3回 社会がこの子と一緒に笑顔になってほしい。難病児の親がおもちゃセットに託す想い
- 第4回 難病児とその家族にクリスマスプレゼント。「あそびのむし」で届ける笑顔になれるひととき
- 第5回 「あそびのむし」を全国約100カ所へ配布。難病の子どもとその家族、社会がつながる未来を目指す
- 第6回 新たに見えてきた難病の子どもの「遊び」のかたち。「あそびのむし」オンライン説明会
- 第7回 「あそびのむし」がもたらす子どもたちの変化。夢中になって「遊ぶ」ことの大切さ
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。