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【災害を風化させない】話しやすい「場づくり」で支援につなぐ。よか隊ネット熊本が大切にする被災者の声に寄り添う支援
- 災害発生時、国や自治体による支援だけでは、支援の手が行き届かない被災者がいる
- よか隊ネット熊本は、被災者一人ひとりの声を聞き必要な支援につなげる「ハブ」的な役割を務める
- 周囲の人と信頼関係を築き、普段から暮らしやすい地域づくりに取り組むことが、防災にもつながる
取材:日本財団ジャーナル編集部
2021年は、東日本大震災から10年、熊本地震から5年といった、未曾有の被害をもたらした大震災の大きな節目となる年。連載「災害を風化させない」では、復旧・復興に取り組んできた人々のインタビューを中心に、今もなお活動を続ける人々の声を通して、災害に強いまちづくり、国づくりを考える。
今回は、熊本にて災害支援におけるコミュニティづくりと現地支援団体のサポート活動を行う一般社団法人よか隊ネット熊本(別ウィンドウで開く)の代表理事を務める土黒功司(ひじくろ・こうじ)さんにお話を伺った。
よか隊ネット熊本は、2016年の熊本地震直後に地元市民団体により結成されたネットワーク組織で、駐車場での炊き出しや車中泊避難者へのアンケート調査、避難所の夜間の見回りなど、公的支援の手が届かない人々へのサポートを展開。また、2020年7月に発生した熊本豪雨においても、物資の支援、避難所や被災地での相談活動などを行い、今もみなし仮設(※)を中心に被災地の人々を支え続けている。
- ※ 災害などにより住家を失い、自らの資金では住宅を新たに得ることのできない被災者に対し、地方公共団体が民間賃貸住宅を借り上げて被災者に供与し、仮設住宅に準じるものとみなす制度 災害などにより住家を失い、自らの資金では住宅を新たに得ることのできない被災者に対し、地方公共団体が民間賃貸住宅を借り上げて被災者に供与し、仮設住宅に準じるものとみなす制度
人と人をつなげることで実現する「面の支援」
「私たちが大切にしていることは、一人ひとりの声に寄り添い、人と人をつなげること。私たちが現地で支援活動を行う団体さんとつながり、またこれから支援活動を行おうとする団体さんや人とつながるなどして、現地のニーズに合ったネットワークを構築することで、より幅広い地域に支援の手が行き届くように取り組んでいます。『点や線の活動をつなげて、面のサポートをつくる』。それが、よか隊ネット熊本の強みだと考えています」
そう語る、土黒さん。よか隊ネット熊本は、困窮者支援や環境問題、孤立者支援、子ども支援、東日本大震災被災者支援などの活動をしてきたさまざまな団体によって2016年4月19日に結成。各団体が持つ専門性と地域とのつながりを生かし、災害支援に取り組んでいる。
そんなよか隊ネット熊本が、これまでつながり、共に活動してきた団体や人は多岐にわたる。大学や企業、NPOをはじめ、こども食堂や傾聴ボランティア、イベント関係者など、多種多様な人たちと力を合わせて被災地支援を行ってきた。
「いろんな団体や人とつながることで、被災者の方のニーズにも応えやすくなります。また、自分たちにはなかった視点や考え方に、気付きをもらうこともとても多いですね」
2016年の熊本地震の際に、車中泊やみなし仮設といった支援の手が届きづらい人たちに対しアンケート調査を行ったよか隊ネット熊本。実はもともと土黒さんも、その時にボランティアとしてよか隊ネット熊本につながった一人だ。
「もともとIT関連企業に勤めていて、ちょうど独立したタイミングで地震に遭いました。発災当初は家族の身の安全を守ることで精一杯でしたが、状況が少し落ち着いてきた頃にボランティア募集の告知を見かけて応募。アンケート調査結果のデータ入力をお手伝いすることになりました。入力用のパソコンや手を動かせる人材が不足する中で、どうすれば早く処理できるかを考えた末に、SNSを活用して協力者を呼びかけることに。結果、全国から数十人の人が集まりお手伝いしてくれることになり、1日で200件ほどのデータ入力が可能となりました」
それが、土黒さんが災害支援に関わった初めての経験。「目の前で困っている人たちに対し、何か役に立てないか」という思いと同時に、「この地震を風化させることなく、子どもたちに伝えていきたい」という気持ちが芽生え、よか隊ネット熊本のメンバーとして正式に加わることとなる。
被災者一人ひとりの声に寄り添い、必要な支援につなげる
復興期の段階に入っても被災地へ足を運び、人々とコミュニケーションを取る活動も、よか隊ネット熊本の特徴の一つ。震災や豪雨から時間が経った今も現地に赴き、地域の交流会などを積極的に開催している。
「災害から月日が経つと、街はほぼ修復され、仮設住宅に入っていた方々も新しい家に移るなど、一見復興しているかのように見えます。でも、人の心は簡単に元通りに戻るわけではありません。一人で悩みや苦しみを抱える方も多くいらっしゃる中で、避難所や仮設住宅といった施設はなくなっていくと共に、私たち支援団体との接点も徐々に減っていく…。そこで大切になるのが、みんなで集まって話ができる『場づくり』『空間づくり』だと考えました」
被災地の人の話を聞く上で大切にしていることは、「気軽に話し合える空間」だと言う土黒さん。
「リラックスできるように、また話が弾むように、ちょっといいコーヒーを用意したり、いすもキャンプ用のチェアを用意したりして、『話しやすい場づくり』を心掛けています」
2021年4月に実施した熊本豪雨に遭った被災地の交流会では、とある被災者から「山の上にある自宅は被災しなかったが、自宅までの道が崩れて生活ができずに別の家を借りることとなったが、生活が苦しい…」という悩みを打ち明けられたそう。
「住居が被災した場合は、自治体から罹災(りさい)証明書(※)が発行され、被災状況によって生活再建のための義援金などを受け取ることができます。ですがこの方の場合、住居に問題がなかったためもちろん罹災証明は発行されません。でもその土地で暮らすこと自体が難しくなり、引っ越し費用や、転居に伴うさまざまな緊急的な出費がかさんだそうです。『被災』とは住まい(住居)に影響がでることなのか。暮らし(生活)に影響がでることは『被災』ではないのか。とても考えさせられました」
- ※ 火災や自然災害などによって住宅等が損壊する被害を受けた場合に、当該市区町村などが損壊状況の調査により被害の程度を認定して証明する公的書類
土黒さんは、この被災者の話を地元の新聞記者につなげ、社会に疑問を投げかけたという。
「私たちは『最も小さくされた人々に偏った支援を行う』ということを大切にしています。もちろん、行政の支援はとても重要です。でも、それで全てをカバーしきれるというものではありません。政府の支援だと避難所中心のものになりますが、実際は避難所に行きたくても行けない人など、被災者の方それぞれの事情があります。そういった事情に耳を傾け、支援につなげていくのが、民間団体だからこそできる取り組みなのではないでしょうか」
一人ひとりの被災者の声に耳を傾けることで本当に必要な支援が見えてくる。その積み重ねこそが、いつ起こるか分からない災害に対する備えにもつながるのではないだろうか。
暮らしやすい地域づくりが、防災につながる
土黒さんに、災害を風化させないために私たちができることを尋ねた。はじめに話に出たのは「震度7」の恐ろしさだ。
「熊本地震当日、私は熊本市にいたのですが、これまで経験したことのない激しい揺れに、はじめは地震ではなく、近くにあった工事現場で大きな事故でも起こったのかと思いました。ひとまず、家族の安否を確認し安心しましたが、その後も長引く余震にとても苦しめられました」
震度6を超える余震が何度も起こった熊本地震。土黒さんは「街路樹や歩道橋、電柱の近くにいるだけでも、いつ倒れてくるのではないかと不安を覚えるほどでした」と当時を振り返る。
「いつどこで、災害が起きるか分からない日本。自分が災害支援に関わり、この活動を続けていくことが災害を風化させずに、子どもたちにつなげていくことができると考えています」
そんな土黒さんが、普段から心掛けているのは「信頼関係を築く」こと。
「5年間の活動を通して思うのは、周りの人たちと信頼関係を築いておくことの大切さ。NPOや行政の方でも普段から関係性があってお互いを知っていれば、何か起こったときにスムーズに協力体制を組むことができる。これは、個人でも同じことが言えますね。隣にどんな人が住んでいるか分からない状態より、何回か挨拶を交わした人の方が、何かあったときコミュニケーションを取りやすくなりますし、安心ですよね」
便利さだけでなく、周囲の人との関係性も含めて「暮らしやすい地域づくりを考える」ことが「防災」にもつながるという土黒さん。隣の人に出会ったら「おはようございます」「こんにちは」の挨拶を交わすだけでも、もしものときの備えにきっとつながるはずだ。
写真提供:よか隊ネット熊本
一般社団法人よか隊ネット熊本 公式サイト(別ウィンドウで開く)
連載【災害を風化させない】
- 第1回 歴史的な一枚の写真が紡いだつながり。写真家・太田信子さんが撮り続ける理由
- 第2回 福島の子どもたちの夢を応援したい。CHANNEL SQUAREの平学さんが目指す本当の「復興」とは
- 第3回 ナナメの関係で子どもたちの「向学心」を育む。宮城県女川町で学び場づくりに取り組む女川向学館の想い
- 第4回 心に傷を負った子どもたちには息の長い支援が必要。キッズドアが被災地で学習支援を続けるわけ
- 第5回 熊本の復興を支援する元サッカー日本代表・巻誠一郎さんが伝えたい、被災地の今、災害の教訓
- 第6回 地域との協働で「子育て」と「働く」を支援。トイボックスが目指す、人と人がつながり、自分のままで生きられる優しい社会
- 第7回 漁師が集い、地域住民が交流し、子どもたちの笑顔があふれる場所に。「番屋」が牽引する地域復興
- 第8回 被災地で広がる子どもの教育・体験格差。塾や習い事に使える「クーポン」で復興を支え続ける
- 第9回 話しやすい「場づくり」で支援につなぐ。よか隊ネット熊本が大切にする被災者の声に寄り添う支援
- 第10回 看護師として「精いっぱいできること」を。ボランティアナースの会「キャンナス」が大切にする被災者への寄り添い方
- 第11回 「遊び」を通して、支え合うことの大切さを伝える。防災ゲームの開発に秘めた菅原清香さんの想い
- 第12回 生活環境を改善し命を守る。災害医療ACT研究所が目指す、安心できる避難所づくり
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。