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【災害を風化させない】福島の子どもたちの夢を応援したい。CHANNEL SQUARE・平学さんが目指す本当の「復興」とは
- 原発事故による外出制限により、不安やストレスを抱えた子どもたちが大勢いた
- 子どもたちの体験機会の創出と、継続的にサポートするための場所が必要
- 福島に足を運び、「面白い」と感じてもらうことが、何よりも支援につながる
取材:日本財団ジャーナル編集部
2021年は、東日本大震災から10年、熊本地震から5年といった、未曾有の被害をもたらした大震災の大きな節目となる年。地震、台風、豪雨、大雪と、毎年大きな災害に見舞われる日本において、私たちはどう備えるべきか。
連載「災害を風化させない」では、復旧・復興に取り組み、今もなお活動を続ける人々の声を通して、災害に強いまちづくり、国づくりを考える。
今回は、東日本大震災以降、福島を拠点に子どもたちが安全に楽しく遊べるインドアパークの運営や、トップアスリートを目指す子どもたちのサポートなどを行っている一般社団法人F-WORLDの代表理事・平学(たいら・まなぶ)さんに話を聞いた。
原発事故をきっかけに湧き上った、ふるさと・福島への思い
豊かな自然に恵まれた福島で生まれ育ち、幼い頃からスキーやサーフィン、スノーボードなど自然の中で遊ぶことが大好きだったという平さん。プレイヤーとして活躍する傍ら、二本松市でスノーボード&サーフ・ショップ「SHREDDER(シュレダー)」の運営や、ゲレンデを生かしたスポーツイベントの企画、立ち上げにも携わってきた。
2011年3月11日の震災発生当時も、まさに雪山の中でイベント準備の真っ最中だったという。
「ゲレンデで雪崩を体験しました。幸いにも無事でしたが、津波によって福島第一原発の事故が起こった。全てが終わったと思いました」
風評被害によりショップの経営は悪化。県外に自主避難することになった家族とも離れ離れで暮らすことになった。福島が汚染され、悔しさを通り越して怒りすら覚えたという。
そんな中、雪に覆われた真っ白な福島の山々を目にする機会があり、改めて福島の豊かな自然の中で仕事をさせてもらっていたことに気付かされたと話す平さん。自分に何かできることはないかと、支援物資を募って避難所へ届けたり、同年5月には人々の不安を払拭するため放射能の影響が及ばない安全な場所を探してイベントを開催し、その収益金を福島県南相馬市に寄付したりした。
放射能汚染から守るためにと屋外活動が制限され、不安やストレスを抱えている子どもたちのことも気がかりだった。
「東日本大震災で原発事故が起こり、放射能という見えないものに対する不安と、外で遊ぶことができずにストレスを抱えた子どもたちに、何とか楽しんでほしいと思い、放射線量を気にせずに安心して遊べる場所をつくれないかと考えたんです」
福島の自然に恩返しをしたい、子どもたちが安全で楽しく遊べる場所をつくりたい――そんな想いから立ち上がったのが、「CHANNEL SQUARE(チャンネルスクエア)福島インドアパークプロジェクト」(別ウィンドウで開く)だ。
子どもたちが安心して体を動かせる場所をつくる
2015~2018年まで福島市南矢野目(みなみやのめ)で運営していた CHANNEL SQUAREは、ボルダリング、スケートボードをはじめとしたさまざまなスポーツを体験できると共に、カフェやショップなども併設された屋内型複合施設だった。
その建設にあたり、2011年のプロジェクト始動から1年かけて約1,000人の子どもたちを対象にヒアリングを行ったという平さん。
「『体を動かしたい』という子どもたちの声をもとに模索し、たどり着いたのがインドアパークだったんです。それまで未就学児向けのインドアパークはたくさんありましたが、小中高生向けの施設はなかった。子どもたちが本気で体を動かして楽しめる場所が必要だと考えました」
構想プランを練り、何のツテもないところから復興庁や福島市を動かし、多くの人に必要性を訴え支援を募り続けた。場所を借りるのに理解が得られず15回近く断られたという。
そして3年半かけて、2015年3月にようやくCHANNEL SQUAREは完成。総事業費には、民間寄付の他に、日本財団が東北の歴史や文化、人々が大切にしてきたものを継承し新たな価値観を生み出すために設けたNew Day基金(別ウィンドウで開く)や、人気の“オオカミバンド”MAN WITH A MISSION(マン・ウィズ・ア・ミッション)からの寄付金が活用された。
オープン以降、CHANNEL SQUAREは子どもからお年寄りまで幅広い層が集う街のコミュニティとして大いに栄えた。
その功績が認められ、福島県二本松市から声がかかり、2018年には「スカイピアあだたらアクティブパーク」(別ウィンドウで開く)に拠点を移動。オリンピック種目でもあるスケートボード、スポーツクライミング、スラックラインの3つが体験できる国内初の複合施設を設計監理し、安全管理を行っている。
利用者の中には、この場所でスケートボードやスラックラインに夢中になり、競技会で上位の成績を収めるなど、未来のオリンピック選手として注目を集めている子どもたちもいるという。
「いい施設をつくると自然とすごい子どもたちが出てくるものなんですね。実際に、いま小学5年生の男の子と中学3年生の女の子の2人が、世界を目指せる位置にいます。夢を諦めずに頑張れば、いろんな道が開けてくる。子どもたちの将来が今から楽しみですね」
また、「CHANNEL JOURNEY(チャンネルジャーニー)」(別ウィンドウで開く)と題して、夏はSUP(サップ※)やカヤック、冬はスノートレッキングなど自然の中で学びながら遊ぶ観光体験型ツアーも立ち上げた。
- ※ 「Stand Up Paddleboard(スタンドアップパドルボード)」の略称。ボードの上に立ち、パドルを漕いで水面を進んでいくマリンスポーツ
震災をきっかけに、福島の恵まれた自然環境に気付かされたからこそ、「経験はかけがえのない宝物。子どもたちにも、思いきり遊びながら、生態系や水資源のことを学んでほしい。自然のありがたさや危険性を体で学び、そして何よりも夢中になって楽しんでほしい」と語る平さん。目指しているのは、子どもからお年寄りまで、あらゆる世代が集い、コミュニティが生まれる場所だ。
CHANNEL SQUAREを通して「福島って楽しい」「福島に生まれて良かった」と感じてほしいと平さんは願う。
福島の自然と人をつなぐことが、復興への近道に
この10年間、苦労も多かったが、それ以上に多くの支援者との出会いに支えられてきたと平さんは振り返る。2011年より毎年開催している復興イベントには、作家・自由人の高橋歩(たかはし・あゆむ)さんやロックバンドMAN WITH A MISSION、漫画家の森川ジョージさん、ちばてつやさんなど、福島に思いを寄せる多くの著名人が参加している。
「個人の方にもたくさん応援していただきました。大阪からリヤカーを引いて、募金を集めながら福島まで歩いて来てくれた大学生もいたんですよ。何よりも、二本松市や岳温泉観光協会のご協力がなければ、事業を継続し、広げることはできませんでした。この10年間、本当にたくさんの方に応援していただいたことに感謝しています」
一方で、常に課題となっているのが、継続的な資金調達だ。現在は主にCHANNEL JOURNEYや、イベント等で販売しているオリジナルグッズの収益を活動資金に充てているが、2020年以降、新型コロナウイルスの影響により収益が減少している。
子どもたちを継続してサポートするためにも「状況が落ち着いたらぜひ皆さんに福島に遊びに来てほしい、それが何よりも復興につながる」と平さんは繰り返す。
「復興の答えってなんだろう?と考えた時に、単に元に戻すだけではだめだと思うんです。僕らのように地元の人間の熱量が活気と活力を生み、それによって街が元気になる。ワクワクするところに人は集まるものだと思うんです。これからは、福島に思いを寄せ、応援してくださっている皆さんに、もっと『福島って面白い!』と感じてもらえるようなチャンネルをつくっていけたらいいですね」
CHANNEL SQUAREのブログ(別ウィンドウで開く)には、これまでの活動の様子が子どもたちの笑顔の写真と共に綴られている。子どもたちにとってこの場所での経験は、かけがえのない思い出になり、福島は特別な場所として記憶に残るだろう。
そしていつか、平さんのように「福島をもっと楽しい場所にしたい」と街づくりに関わるようになるかもしれない。「これから10年後、20年後、30年後と、次の世代へ思いをつなぎ、新たな夢が生まれるサイクルをつくりたい」と言う平さん。その言葉に、真の復興の答えがあるのではないだろうか。
〈プロフィール〉
平学(たいら まなぶ)
福島県二本松市出身。スノーボード、サーフ・ショップ「SHREDDER」を運営する傍ら、東日本大震災をきっかけに、一般社団法人F-WORLDを設立。福島の地域活性化を目的とした子どもたちが遊べるインドアパーク「CHANNEL SQUARE」を建設。現在は故郷である二本松市の複合施設「スカイピアあだたらアクティブパーク」を設計監理し、安全管理を行う。アスリートを目指す子どもたちを支援する「夢ミライサポートプロジェクト」や、観光体験型ツアーの提案など多岐にわたって活動している。
CHANNEL SQUARE 公式サイト(別ウィンドウで開く)
連載【災害を風化させない】
- 第1回 歴史的な一枚の写真が紡いだつながり。写真家・太田信子さんが撮り続ける理由
- 第2回 福島の子どもたちの夢を応援したい。CHANNEL SQUAREの平学さんが目指す本当の「復興」とは
- 第3回 ナナメの関係で子どもたちの「向学心」を育む。宮城県女川町で学び場づくりに取り組む女川向学館の想い
- 第4回 心に傷を負った子どもたちには息の長い支援が必要。キッズドアが被災地で学習支援を続けるわけ
- 第5回 熊本の復興を支援する元サッカー日本代表・巻誠一郎さんが伝えたい、被災地の今、災害の教訓
- 第6回 地域との協働で「子育て」と「働く」を支援。トイボックスが目指す、人と人がつながり、自分のままで生きられる優しい社会
- 第7回 漁師が集い、地域住民が交流し、子どもたちの笑顔があふれる場所に。「番屋」が牽引する地域復興
- 第8回 被災地で広がる子どもの教育・体験格差。塾や習い事に使える「クーポン」で復興を支え続ける
- 第9回 話しやすい「場づくり」で支援につなぐ。よか隊ネット熊本が大切にする被災者の声に寄り添う支援
- 第10回 看護師として「精いっぱいできること」を。ボランティアナースの会「キャンナス」が大切にする被災者への寄り添い方
- 第11回 「遊び」を通して、支え合うことの大切さを伝える。防災ゲームの開発に秘めた菅原清香さんの想い
- 第12回 生活環境を改善し命を守る。災害医療ACT研究所が目指す、安心できる避難所づくり
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。