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【災害を風化させない】熊本の復興、地域活性化を若者の力で。人材育成を手掛ける一般社団法人が試みるまちづくり

- リーダーだけでなく、それを支える人材がいなければ地域の復興や活性化は進まない
- フミダスでは、有能な人材を熊本に呼び込むと共に、地元の若手育成に力を入れる
- 熊本を盛り上げ、若者が活躍できる場所を増やすことで、地域の未来を切り開く
取材:日本財団ジャーナル編集部
2021年は、東日本大震災から10年、熊本地震から5年といった、未曾有の被害をもたらした大震災の大きな節目となる年。連載「災害を風化させない」では、復旧・復興に取り組んできた人々のインタビューを中心に、今もなお活動を続ける人々の声を通して、災害に強いまちづくり、国づくりを考える。
今回は、熊本で若者と仕事と地域をつなぐ事業を手がけ、熊本地震の際には日本財団の支援のもと復興に取り組むリーダーのもとへ「右腕」となる人材を送り込む「熊本復興・右腕プログラム」を展開した、一般社団法人フミダス(外部リンク)代表・濱本伸司(はまもと・しんじ)さんにお話を伺った。
災害復興のリーダーを支えた「右腕プログラム」
「地域を良くするために立ち上がるリーダーがいても、それを支える人材がいなければ、事業を続けることは難しいものです。私たちが取り組む『熊本復興・右腕プログラム』では、そんなリーダーをサポートするメンバーを全国から募集し、アサインしてきました」

「右腕プログラム」は、2011年に起きた東日本大震災の復興を目的に、起業支援プログラムを通して若手人材の育成に取り組むNPO法人ETIC(外部リンク)が中心になって立ち上げた事業。その活動に当初より関わりのあった濱本さんたちが、熊本地震発生の際に、ETICの協力のもとスタートしたのが「熊本復興・右腕プログラム」だ。
2011年から100を超えるプロジェクトが生まれ、250人を超えるメンバーが東北や熊本での被災地の復興を進める「右腕プログラム」に参加したと言う濱本さん。
その他にも、熊本地震後に阿蘇山噴火が重なって客足が減り、100年に一度の危機に見舞われた観光地・黒川温泉を復興させるプロジェクトに、元レジャー施設で広報を勤めていた人が参加したり、仮設住宅で暮らす高齢者のための健康支援プロジェクトに地元の大学生が参加した例もある。


「『右腕プログラム』の良いところは、全国からいろんなバックグラウンドを持った人材が集まるということ。地方だと良い意味でも悪い意味でも人間関係が固まっているところが多いのですが、そこに多彩なメンバーが加わることで新しい気付きが得られ、地域の活性化にもつながります」
参加者の中には、右腕の経験を生かして独立した人や、その地域に惚れ込み継続して働き続ける人、自身もリーダーになった人などがいる。濱本さんが「『右腕プログラム』は、その地方で新しい土をつくっていく風」と言うように、地域に新風を吹き込む取り組みと言える。

若者の力が地域や企業を元気にする
フミダスでは、2012年の設立以来、熊本と地元の若者をつなぐ人材育成を手掛けている。その活動について話を伺ったところ、まず出てきたのは、いま日本の多くの地域が抱える課題だ。
「『消滅可能性都市』と言う言葉をご存知でしょうか。これは、他県への人口流出や少子化が進み、街として存続できなくなる恐れがある自治体を指す言葉です。私たちが暮らす熊本にも消滅の危機に瀕している地域があります」
当該都市が消滅の危機に瀕する大きな理由は、若者たちが地元を離れてしまうこと。その理由について濱本さんは、地域の企業と若者の接点の少なさを指摘する。
「熊本には多くの中小企業がありますが、就職先で目立つのは東京の大企業。熊本より都会の生活に憧れて、地元を離れる若者も少なくありません。また『地元に住み続けたいけど…』と考えていても、情報の少なさからどんな企業に勤めていいかも分からず、都心へ赴く若者も多いようです」
地元企業との接点の少なさに加えて、若者の就職活動全般において濱本さんが問題だと感じるのは、アルバイト以外の会社で働いた経験が少ないまま就職してしまうことだ。
「就職先の企業で具体的に働くイメージが持てないまま入社してしまうことは、若者にとってもその企業にとってもミスマッチが起きやすく、リスクと言えるのではないでしょうか」
フミダスでは、学校や企業と連携し学生が主体となって社会との関わりから仕事や働く意義を学ぶ「キャリア教育」を熊本県立大学、北九州市立大学などで実施している。
「一つの例として、熊本県立大学の総合管理学部では『ガチカリ』という産学連携で行う学生による地域課題解決授業のコーディネートを行なっており、令和3年度で4年目を迎えます」

「ガチカリ」では、学生たちに担当企業の人事として、企業が抱えるリアルな課題の解決に取り組んでもらう。企業訪問やヒアリングを行い、最終的には新卒採用Webページを企画作成し、社長に直接提案。実際に使用された例もあるそう。その際、学生ならではの視点に気付かされるだけでなく、想像以上のモチベーションの高さに驚かされたという。
企業からも「授業でのつながりから実際に採用につながった」「学生ならではの意見が新鮮で、参考にさせてもらうことが多かった」と好意的な反響も多く、その報告を企業側の担当者から聞き、改めて若者が地域に与える影響の大きさを濱本さんは感じたと言う。

「実践型キャリア教育を実施する上で大事にしていることは、学生にとっても、企業にとってもみんながプラスになる“三方良し”の考え方。学生と社会人とでは日頃使う言葉や考え方が違います。その違いをそれぞれに理解してもらい、壁を取っ払うことで、関わるみんなにとってメリットのあるプログラムを構築しています」
「働く=お金」だけでなく、「働く=生きる」「働く=学ぶ」といった考え方を、キャリア教育を通じて若者たちに経験してほしいと濱本さんは話す。

熊本を盛り上げ、若者が活躍できる場所を増やす
地域の活性化や若者のキャリアの選択肢を広げる活動に取り組む濱本さんたち。これからの熊本の復興支援と、フミダスのビジョンについて話を聞いた。
「熊本地震については、インフラ面での復興はかなり進んでいます。阿蘇大橋の開通や熊本城の天守閣も元通りになりました。ニュースでも、熊本地震に関するものはほとんど見かけなくなりましたね。だからといって復興を遂げたというわけではなく、被災者の方へのメンタル面におけるサポートはまだまだ必要だと感じています」
さらに熊本は、2020年7月の豪雨災害でも大きな被害を受けている。被災地である人吉(ひとよし)市では、いまだ大きな爪痕が残っている。


新型コロナウイルスの影響でボランティア等の行き来が難しい現在、フミダスで、オンラインで地域と全国のスキルを有する人材とを結ぶ「人吉復興オンライン副業プログラム」(外部リンク)と、災害で職を失った地元の若者の就労機会をつくり出す「人吉復興若者仕事づくりプログラム」(外部リンク)を展開し、人吉市の復興に取り組んでいる。
「美しい球磨川や歴史ある神社などがある人吉市で、興を後押しするような新たなプロジェクトを進めています」
平安時代初期に創建された復興のシンボルでもある国宝神社の広報や、イベント運営を支えていくプロジェクト、県内外の人を人吉市につなげ関係人口を誘致するためのプロジェクトなど、ワクワクするような計画が同時進行で進められている。

「新型コロナウイルスなどの影響により、社会が大きく変わる中、今ある仕事に自分を合わせるのでなく、自分がどうありたいかを考え、柔軟に新しいことに挑戦する姿勢が、未来を切り開いていくのではないでしょうか」
熊本を盛り上げ、地域の若者が活躍できる場所を増やすことに奮闘する濱本さん率いるフミダス。これから熊本がどのような輝きを放っていくのか、注目し続けたい。
写真提供:一般社団法人フミダス
〈プロフィール〉
濱本伸司(はまもと・しんじ)
1976年生まれ。熊本県立大学総合管理学部卒。大学卒業後、地元テレビ番組のディレクター、市町村の人材育成コンサルティングなどを行い、2002年から熊本市長秘書として活動。若者育成や地域づくりに携わる。その後企業再生事業に取り組みながら2012年に一般社団法人フミダスを設立。地域を担う人材を育む生態系をつくることを目的に、産学連携によるキャリア支援プログラムやまちづくり事業に取り組んでいる。
一般社団法人フミダス コーポレートサイト(外部リンク)
連載【災害を風化させない】
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第1回 歴史的な一枚の写真が紡いだつながり。写真家・太田信子さんが撮り続ける理由
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第2回 福島の子どもたちの夢を応援したい。CHANNEL SQUAREの平学さんが目指す本当の「復興」とは
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第3回 ナナメの関係で子どもたちの「向学心」を育む。宮城県女川町で学び場づくりに取り組む女川向学館の想い
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第4回 心に傷を負った子どもたちには息の長い支援が必要。キッズドアが被災地で学習支援を続けるわけ
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第5回 熊本の復興を支援する元サッカー日本代表・巻誠一郎さんが伝えたい、被災地の今、災害の教訓
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第6回 地域との協働で「子育て」と「働く」を支援。トイボックスが目指す、人と人がつながり、自分のままで生きられる優しい社会
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第7回 漁師が集い、地域住民が交流し、子どもたちの笑顔があふれる場所に。「番屋」が牽引する地域復興
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第8回 被災地で広がる子どもの教育・体験格差。塾や習い事に使える「クーポン」で復興を支え続ける
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第9回 話しやすい「場づくり」で支援につなぐ。よか隊ネット熊本が大切にする被災者の声に寄り添う支援
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第10回 看護師として「精いっぱいできること」を。ボランティアナースの会「キャンナス」が大切にする被災者への寄り添い方
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第11回 「遊び」を通して、支え合うことの大切さを伝える。防災ゲームの開発に秘めた菅原清香さんの想い
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第12回 生活環境を改善し命を守る。災害医療ACT研究所が目指す、安心できる避難所づくり
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第13回 熊本の復興、地域活性化を若者の力で。人材育成を手掛ける一般社団法人が試みるまちづくり
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